片麻痺で「両手が動く」クロールを泳ぐ

こんにちは。
アクアマルシェの酒井です。

最近の傾向として発達障害や知的障害の方の記事が多かったのですが、身体障害のある方の水泳のポイントも書こうと思い、本日にいたりました。

身体障害のある方にとって、陸上ではなかなか思うように動けない一方で、水の中では自分の力で動くことができるのが一番うれしいと言われるところです。

今回は片麻痺(半身まひ)の方のクロールに着目していこうと思います!

まずはけのびをやってみよう!

こどもか大人か、軽度か重度か、先天性か否かに関わらず、半身まひの方が水泳をはじめるとき、やっぱりけのびは欠かせない技術です。
はじめは普段の生活している姿勢で浮いてみましょう。片腕が畳まれていてもまずはOK!です。

そして大事なことは、慣れてきたら一般的な「けのび」姿勢が取れるようにシフトしていきましょう。
いわゆる、腕も脚もまっすぐにストレッチをきかせるようにのばした「けのび」姿勢のことです。

健側の手で、患側の手を持って引っ張ると腕が伸びやすいです。
脚もバレリーナをイメージして健側をピンとオーバーに伸ばしてみると、患側もつられて伸びやすくなります。
痙縮が強い方も、すこーしずつ、リラクゼーションを入れながら、まずはプールの底に向かって、指先をのばすように意識してみましょう。

力が抜けて、自然と腕が軽くなって「浮き手」になります。

手先から足先まで、ピンと引っ張る技術は、まるでア-ティスティックスイミングのようですが、少しずつ試してみてください。

いつの間にか、手の位置、脚の位置が全く同じになりますよ。

クロールの腕を練習してみよう

いよいよクロールを練習してみましょう。

一番バランスがとりやすいのは、右半身と左半身と交互に体重移動させる「2軸」と言われる泳ぎ方です。

まずは片手でけのびをしてみましょう。
片麻痺の方がクロールのように左右交互に体を使う動きをするとき、一番分かりやすいのは、患側が軸、健側が動くことだと思います。
片手でけのびをするときも、まずは健側を前に伸ばして患側を太ももに沿わせた姿勢でけのびしてみましょう。

これでバランスがとれたらまずはOKです。

次に、最初に行った両手を伸ばしたけのび姿勢から、健側を動かして片手のけのびをやってみましょう。
健側を動かした時、患側の手はずっとのばしたままを意識してみてください。

はじめは同時に動いてしまうことも多いと思いますが、ストレッチ~と意識していると患側が前にのびたままの片手けのびができるようになっていきます。

慣れてきたら、「けのびキープ」→「患側が前のけのび姿勢をキープ」→「健側を前に戻す(両手がそろったけのび姿勢になる)」という流れで動かしてみましょう。

片麻痺のクロールは大きく2通りある

ここまで読むと、「あれ?片麻痺の人のクロールは、患側を胸の前で畳んでいるクロールじゃないの?」と思われる方も多いと思います。
程度によって、腕を畳んだクロールを泳がれる方は多いと思います。
はじめはそのやり方で問題ありません。

慣れてきたら、畳んだ手を伸ばしていくクロールも練習してみることをお勧めします。

と、言いますのも、決してリハビリ目的ではなく、シンプルに腕の重さが前にある方がバランスがとりやすいからです。
脳からの指令が伝わり、すこーしずつ痙縮がとれていくと、肘がのびてプールの底を向いていた腕が前に伸びやすくなります。
息継ぎすることを考えると、胸の横に腕があると真下に引きずり込まれる力が生まれてしまい、息継ぎがかなりしんどくなります。
思いっきり健側の腕で水を「掘る」ようにかかないと頭が上がらないような状態になってしまいます。

首も半分麻痺があるため、健側の首を痛める原因にもなります。
患側の脚でキックを打つこともできず(つまり浮力を生み出せない)、下半身から沈みやすくなり、力で泳ぐようになります。
水泳は水が主役です。力みは余計にエネルギーを消耗し、体のねじれを生み出してしまいかねません。

なので、なるべく体から腕を遠くへ伸ばすところからスタートして、最後に前に伸びることを最終ゴールにけのびもクロールもやってみることをお勧めします。

ある日、両腕が規則正しく動いている

麻痺があっても両腕をまっすぐ伸ばすけのびの練習をしたり、片手でクロールを練習するときに患側の手ものばして泳いでいると、ある日、水の推進力と体の(まひ側の反射や筋肉の使い方)がリンクして、左右交互に腕が動くクロールになります。

患側の方が腕を回すのに時間がかかりやすいのですが、左右の腕の戻り方や戻るのにかかる時間は気にせず、波の力もどんどん活用して回して泳いでみましょう。

慣れてくると、いつもおなじタイミング・リズムで腕を回せるようになり、徐々に左右の腕の戻る時間があってきます。

常連さんから「奇跡だ!」「動いた!」「魔法だ!」と言われるようなシーンに出会います。
(細かいメカニズムは判明できていないところもあるそうですが、伸張反射など複雑に絡み合って、「あれ?回せた!」とクロールが泳げるようになります。)
でもこうしてちゃんとしたメカニズムはあるのです。

両方の腕が回せたとしても、どうしても健側の方が水を強くひっかけてかけるのではじめはまっすぐ泳ぎたくても斜めにいってしまってコースロープにぶつかることもあるかもしれませんが、だからと言って体を小さく使うのはもったいないのでできるだけ大きく使ってまっすぐ泳げるように練習しましょう。
小さく泳ぐと患側の痙縮が始まってしまい、「魔法」がとけてしまいます。

のびやかな動きは、日常生活でも水泳でも生きてくるのですね~…。

うまくバタ足をするコツ

半身まひの方がバタ足をするとき、「バタ足しなくては」と力まず、まずは足首をやわらかくブラブラに振ることができるようにしましょう。
陸上でも体操の1つとして取り入れられますね。
朝目覚めたらベッドの上で、デスクの下で、夜お風呂に入ったとき、寝る前に…足首に振動を与えて麻痺があっても揺れるようにしておくと、患側であっても、水中で足首のスナップをきかせたバタ足になります。
麻痺のある方は左右どちらかでバランスをとって生活していることから足首が固くなりがちです。先天性の方は知らず知らずのうちに凝っていることもあります。
水に入れば足首の緊張がぬけるくらいに、なれると理想です。

左右交互に足首が揺られれば、スクリューのように足首を動かしたバタ足も夢ではありません。

生徒さん全員に最初から目指していたわけではないのですが、練習をしていったらある日気が付いたらできていた…という感じです。

両手両足を使ったクロールはこうして生まれるのです。

ここまで機能が回復してくると、大会を見据えたときにクラスが変わる可能性があります。

私自身、メダルを取ることももちろん目標として目指すのは大切だと思いますが、金メダルよりも(人によってはクラスが変わることでよりレベルが高く感じられるかもしれません)こうして体が動けるようになって、水泳のみならず日常生活の楽しみが今よりもっと増えるような、ケガをしない健康な体ができるような…それも大事だと思うのです。

将来、風格のある泳ぎができるかもしれないと思うと、「生涯スポーツ」としての水泳の役割をお伝え出来たかなと私もワクワクと嬉しさがこみ上げます。

もちろん腕を畳んで泳ぐのももちろんアリだと思いますし、その人のその日その時々の気分や体の具合で決めていければいいのです。
両方できると、その日の自分の具合に合わせながら、体を調整するために泳ぐことができたり、タイムを計ってみたり、ドリル練習したりと幅が広がりますよ。

生徒さんにも、はじめは「両手のばしてー」と説明していても、別の日には「バランス練習なので片側で泳ぎましょうー」と伝えることもあります。

もちろん、障害の程度により、できる範囲や達成するまでの時間は個人差があると思いますし、治そうと思って記事を書いたわけではなく、あくまで「こんな練習の仕方・泳ぎ方がありますよ」と思って気楽に流していただけたらありがたいです。

ぜひご自身にあった、「ピッタリな泳ぎ方」を見つけてみてください!

アクアマルシェではお一人お一人に合った泳ぎ方を一緒に考えていきますよ、お気軽にどうぞ